手術の概要

腹部や脚など、脂肪の多いところから、脂肪吸引で脂肪組織を採取し、その脂肪をバストに注射して、豊胸効果を獲得します。

準備・麻酔・消毒

  • 立位または座位で、脂肪を注入する範囲や、注入する方向を、胸部にデザインします。
  • 立位で、脂肪吸引のデザインをします。
  • 手術台に横になってから、点滴を行います。
  • 麻酔は、脂肪吸引の範囲や箇所によって、全身麻酔・硬膜外麻酔・局所麻酔の中から、選択します。
  • 手術の対象になる部分を消毒します。消毒範囲は、バストと脂肪吸引の対象部位です。

手順

  • 脂肪吸引を行い、脂肪組織を集めます。
  • 集めた脂肪組織を加工し、注入用の注射器に封入します。
  • バストに脂肪を注入します。この時、できるだけ細かく、バラバラに、色々な層に注入することが大切です。いろいろな層とは、具体的には、表面から、皮膚直下・皮下脂肪内・乳腺直上・乳腺下脂肪組織内・大胸筋筋膜直上となります。
  • バストには、注入に用いた穴にガーゼを貼るだけです。
  • 脂肪吸引した部分は、圧迫用のタイツやガードルなどで、ヘヴィーな固定をします。

術後

  • 翌日から3日目くらいで、脂肪吸引した部分の、ヘヴィーな固定を除去します。その後は、市販の、圧迫の加わる下着を着用していただきます。この時から、シャワーが可能になります。
  • 術後約1週間目に、抜糸を行います。その後、浴槽に入浴していただけます。
  • 術後約2週間目に、脂肪吸引を行ったところのマッサージを開始します。バストのほうは、マッサージは不要で、むしろ何もしないことになります。この頃には、内出血が、ほぼ消失しています。脂肪吸引したところは、腫れが退いて、効果が出始めます。バストの腫れも、ほぼ退いてくる頃です。
  • 術後1か月目には、脂肪吸引した部分に硬さが出ています。バストのほうは、注入した脂肪の吸収が進行して、小さくなってきます。
  • 術後3か月目が経過すると、脂肪吸引した部分の硬さが、ほぼなくなります。バストのほうも、脂肪の吸収が最終段階に到達して、完成の域に到達します。

 

技術的側面

脂肪注入豊胸術の技術的側面は、大きく分けて、注入する脂肪にかかわるものと、手術の手技にかかわるものがあります。

注入する脂肪と、その加工

自分の脂肪を利用した豊胸術は、一般的には脂肪注入と言われていますが、実際には、自分の脂肪を胸に移植することで、自家脂肪「移植」です。確かに外見上は、バストに対して注射器を使用して、脂肪組織を注射する形をとりますので、注入と言って間違いではありません。しかし、注入された脂肪組織は、生きた細胞を含むので、それがバストの中で生き残らなければ、長期にわたる豊胸効果が得られません。したがって、注入という形式上のことを除けば、脂肪注入は移植手術と考えるべきだと思われます。
移植と言っても、自分の組織の移植ですから、指の再接着や皮膚の移植と変わりなく、拒絶反応と言うものはありません。しかし、これらの手術同様に、脂肪注入も、移植するものの新鮮さが大切であることに変わりありません。そして、脂肪細胞は、酸素や栄養の遮断に対しては弱く、実際にバストに注射されるまでに、かなりの割合で死滅しているとされています。実際に、バストに生きたまま注入されて生き残っている細胞は、脂肪細胞そのものではなく、幹細胞や前脂肪細胞という、脂肪細胞の元になる細胞であると言われています。
そこで、それらの 幹細胞や前脂肪細胞を多く含む脂肪組織を作成するように、注入する脂肪を加工しようということになり、幹細胞脂肪注入や、コンデンスリッチなどと言う、SVFを利用する方法が、注入用の脂肪を加工する方法として、開発されたというわけです。

脂肪吸引手術の手技

注入する脂肪組織を集めるための脂肪吸引に関しては、その安全性や仕上がりのことを鑑みれば、自ずと一定の方法に落ち着いていると思われます。ツーメッセント法を用いて、止血と脂肪組織の膨化を得た後、カニューレを使用して、脂肪を採取するという手順です。
但し、ベーザーやレーザーなど、熱が発生する機器は、脂肪組織内の細胞にダメージを加えてしまうので、注入した生着率が落ちます。また、採取するときのカニューレの直径が細くないと、術後の痛みなどが強く出ます。したがって、限度はありますが、できるだけ細い直径のカニューレを使用することです。また、細いカニューレで採取した脂肪組織は、その後の脂肪組織の加工時間が短く、新鮮な脂肪組織を注入に用いることができます。

注入手技

脂肪注入は、ヒアルロン酸などのジェル・フィラーの注入とは違って、生きた組織を注入するため、あくまでも移植手術です。ただし、腎臓や心臓などの通常の臓器移植とは違って、血管を縫合して血流を再開させるようなことはしません。組織の中に、脂肪組織を置いてくるだけです。これは、皮膚の移植と同じように、移植した組織には、その周辺に接触している組織から、浸み込むようにして酸素や栄養が供給されるということです(腎臓や心臓の場合には、縫合された血管から、酸素や栄養が供給されます)。そこで、大切になるのは、一度に同じところに注入する、脂肪組織の大きさ・サイズです。注入脂肪一粒一粒の大きさということもできます。この脂肪組織の粒のサイズが大きすぎると、生着率(吸収されずに残る量)が低下します。もっと大きいと、しこりを残します。それは、下の図のように、注入した脂肪の粒が大きすぎると、 酸素や栄養が、中心まで浸み込まず、中心部が壊死に陥るからです。これは、皮膚の移植の際に、分層の薄い皮膚のほうが、全層の分厚い皮膚よりも、壊死に陥りにくいというのと同じです。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5522520/figure/Fig7/

この図の中で、Central Necrosisとあるのが、中心部が壊死に陥ることです。そして、壊死に陥った脂肪組織は吸収されてしまい、生着率が低下して、計画以下の豊胸効果しか獲得できないことになります。さらに、壊死に陥る中心部が大きければ、吸収が追い付かず、壊死に陥った組織は異物として認識され、慢性的な炎症を発生しつつ、分厚いコラーゲン繊維でできたカプセルで取り囲まれ、しこりになります。このような合併症を防止するためには、上記の図によると、中心部の壊死を確実に防止するには、注入する脂肪の粒は、1/50ml(=0.02㏄)以下でないといけないことになります。

 

用語解説

幹細胞脂肪注入

脂肪吸引で採取した脂肪組織から、幹細胞を分離・抽出して、別に用意した注入用脂肪組織に混合して、注入用の脂肪組織を作成する、脂肪注入の方法です。注入手術そのものの名前と言うよりも、注入用脂肪の加工法と言ったほうが良いでしょう。幹細胞を抽出する機械の名前で、様々な名前で呼ばれていることが多いようです。
脂肪吸引で採取した脂肪組織には、元々の脂肪組織内に比べて、幹細胞が約半数しか存在しないという発見が、この方法の普及の根底にあります。
生着率は、約60%と、従来の単純な脂肪注入の30%の約2倍に改善しています。
最近の研究結果としては、脂肪とともに注入された幹細胞は、脂肪細胞に変化するのではなく、成長因子を放出しつつ、血管やリンパ管などを構成するようになり、元々そこにあった脂肪組織が成長因子によって増殖することで、豊胸効果が出るというのが、定説となりつつあります。

SVF(間質血管分画)

脂肪吸引で脂肪組織を集め、それを砕いて小さな粒にした後、遠心分離した際にできる層の一つ。この層には、他の層よりも多くの、幹細胞や前脂肪細胞などの、脂肪組織の元になる細胞が含まれています。このSVFを薬品で処理して、遠心分離すると、幹細胞が取り出せます。
コンデンスリッチと言われている方法は、脂肪にSVFを混ぜて注入する方法のことです。生着率は、約70%とされています。しかし、この生着率は、脂肪とSVFとの混合比率によって、大きく変化するというのが実情です。また、SVFを取り出した後の脂肪組織を、注入用の脂肪として使用して、従来の脂肪注入と何ら変わらない生着率である30%となる場合もあるようです。

ピュアグラフト

脂肪吸引で集めてきた脂肪組織から、フィルターを使って、水分・血液・遊離した脂肪・その他不純物を取り除く器具のこと。この器具を使用することによって、生着率が向上したというエビデンスはありません。脂肪注入豊胸術においては、 あくまでも補助的に使用するものだということです。

MAFT-gun (マフト・ガン)

脂肪を注入する際に、注射器を取り付けて使用するピストル型の器具。細かく色々な位置と層に、脂肪を注入できるように開発された注入器具です。1㏄の注射器を取り付ける顔面用と、10㏄の注射器を取り付けるボディ用があります。豊胸手術に使用されるのは、ボディ用です。引き金を一回引くごとの注入量を調節できます。ボディ用でも、引き金を一回引くごとに、0.004㏄から0.01ccまでの注入量に設定でき、かなり細かく脂肪組織を分割して注入することが可能です。

http://www.maft-gun.com/maft-gun/